すばらしかった。日常描写がそのままおとぎ話のように感じる不思議。バス運転手のパターソンは毎日「ほぼ」同じ生活を繰り返している。この映画はこの「ほぼ」を祝福する映画だ。
すべては偶然にすぎないかもしれない。でもその偶然は繰り返される日々の中で意味や価値を帯びていく。例えば、ちょっとした事故に遭遇。そのことを「じつはさ・・」と家で妻に話す。いやいや観客全員見てますから、知ってますからその事の顛末。なのに話す。新しい情報ゼロで。ウソをつくわけでもない。そんな映画ある? でもその反復に監督の言いたいことはある。それが人と人の暮しじゃないか。人と人はそんなふうに時間を積み上げて、どんなネガティブな偶然もいずれ光を獲得し、その偶然を「必然だった」という人もいるだろう。つまりは祝福される偶然。それが人生の有りようかもしれない、そんなことまで思った。
ときどき見切れるさまざまなツインズたちは、そのことのアイコンのようだった。おとぎ話は今ここにある。たぶん泣く映画ではないと思うけどなぜか泣けてしかたなかった。ジム・ジャームッシュ、やっぱり唯一無二の世界観を持つ監督のひとり。